見えない糸が結ぶ縁 |
ピカピカに磨き上げられた中古車がずらりと並ぶ展示場。それじれの車は、自分の魅力を主張しつつ、新たな主人との出会いを待って |
いるようだ。 |
中古車展示場の前を通りかかるたび、ふと心をよぎる10年前の情景がある。「彼もこうして期待半分、不安半分で待っていたんだろう |
なあ」 |
◇ |
2000年10月25日、7人のモンゴル少年たちが関西国際空港に降り立った。全員、本物の海を見るのは初めての草原育ちで、少年たち |
の目的はひとつだった。将来の関取を夢見て相撲部屋の関係者にスカウトしてもらうことだ。 |
大阪にある実業団相撲チームの合宿所に寝泊まりし、2か月間、稽古に明け暮れ、東京から訪れる相撲部屋の親方たちから誘われる |
のをひたすら待つ。 |
実業団チームの監督は相撲界に顔が広く、1人、また1人と相撲部屋から、声が掛かり、東京へ旅立っていった。7人の中で最年少の |
15歳で175センチ、68キロと、いかにも体の線が細く、色白なムンフバト・ダヴァジャルカル少年のところには、どこからも声が掛けらなか |
った。 |
少年の父親はモンゴル相撲の大横綱で、メキシコ5輪のレスリングで2位となり、モンゴルに初めての5輪メダルをもたらした国民的な英 |
雄だった。しかし、そのことを知る日本人はほとんどいなかった。 |
約束の2カ月はあっという間に過ぎようとしていた。「やっぱり僕には相撲は向いていないんだ」悔しかったが、少年は大相撲は夢をあ |
きらめ、モンゴル行きのチキットを購入し、ウランバートルで待つ両親に土産物も買った。 |
そんなとき、宮城野部屋の元力士が実業団チームを訪ねてきた。ムンフバト少年の引きとり先が決まらないことを心配したモンゴル出 |
身の旭鷲山が、所属する立浪一門の総師、大島親方に頼み込んで少年の引き取り先を探してもらったのだ。 |
モンドルに帰国する前夜。まさにきりきりのタイミングでムンフバト少年の相撲界入りの夢はつなぎ留められた。 |
宮城野部屋に入門したムンフバト少年こそが今をときめく横綱・白鵬である。 |
◇ |
2010年の大相撲は、まさに激流に襲われた1年だった。白鵬の先輩横綱・朝青龍は初場所中の深夜、泥酔し一般人にけがをさせてい |
たことが分かり、引退に追い込まれた。夏場所後には大関・琴光喜らが暴力団絡みの野球賭博に手を染めていたことが発覚。名古屋 |
場所はNHKのテレビ中継がなくなる異例の事態となり、武蔵川理事長が引責辞任に追い込まれた。 |
そんな中、孤軍奮闘して土俵を盛り上げたのが1人横綱の白鵬だった。 |
不滅の記録と言われた双葉山の69連勝への挑戦は九州場所2日目、希勢の里の前に寄り切りで敗れ、「63」でストップしたが、瀕死の |
相撲界を救った立役者でもあった。 |
10年前、ムンフバト少年と大相撲は、目に見えない糸で結ばれていたに違いない。中古車展示場に並ぶ1台、1台も運命の糸で結ば |
れた主人と出会う日がきっと来る。そう願いたい。 |
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